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皆に見送られた坂崎義彦(さかざきよしひこ)は、 本社ビルのエントランスを出ると、会社に向かって深く一礼をした。 この日、定年退職を迎えた義彦は、 それからすぐに帰路についた。 大々的な送別会は先週終わっていた。 世話になった同僚達とは、 この一ヶ月の間に何度か飲みに行き、既に挨拶を終えていた。 今日はこのまま真っ直ぐ家に帰るだけだった。 帰宅ラッシュの満員電車を乗り継ぎ、 自宅の最寄り駅を目指す。 義彦の家は、神奈川県の海の近くにあった。 そこから毎日1時間半をかけて、長い間会社へ通い続けた。 途中数年間、単身赴任で地方へ行っていた事もあったが、 それ以外は毎日同じ電車に乗り続けた。 この混んだ電車にはもう乗らなくて済むのだと思うと、 ホッとするような、少し淋しいような....... 複雑な気分だ。
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