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「話を合わせてください。お母様も喜んでらっしゃる」
それは……。
確かにそうだ。ずっと母親は菜那が結婚することを願っている。ここで本当は違うと言ったら母親は悲しむのは目に見えている。なら……相手を思ってつく嘘も優しさなのかもしれない。
菜那は小さく頷いた。
「あと、俺のことは蒼司と呼んでくださいね」
目を見開き、蒼司を二度見する。
な、名前で!? そんなっ……でも確かに恋人なのに宇賀谷様はおかしいよね……。
分かりましたの意味を込めて菜那はもう一度頷いた。
「なーに二人でこそこそしてるの?」
「な、なんでもないよ。その、言いそびれてたんだけど今お付き合いしてる宇賀谷蒼司さん。凄く優しくていい人なの。今日もその、そ、蒼司さんが病院まで送ってくれたんだ」
名前を言うだけでこんなにも体力を使うなんて知らなかった。蒼司は満足げに目を細めて笑った。
「わたしなんかより菜那さんの方がとても優しくて、気が利きますし、本当に好きであるとともに尊敬もしています。菜那さんの作る料理は本当にどれも美味しくて、胃袋までガッチリ掴まれてしまいましたよ」
蒼司の言葉を聞いて顔が燃えるように熱くなる。
料理は気に入ってもらえてるのは分かってたけど、尊敬? 私の事を?
一体自分のどこを尊敬してくれているのか凄く気になった。思い当たる節なんて一つもない。
「菜那がいい人に巡り合えてよかったわ。本当にこれでいつ死んでも安心ね」
本当に安心しきった顔で母親は微笑んだ。その表情に嘘をついた心がチクリと痛む。
「……お母さん、縁起でもないこと言わないの」
「ごめん、ごめん。そうよね、死んだら菜那のウエディングドレス姿も孫も見れないものね! 頑張らなくっちゃ」
「そうだよ! もう! これだけ喋れれば大丈夫そうだね。また明日来るから今日は帰るよ」
「また二人で一緒に来てちょうだいね」
菜那はうんっと元気よく返事を返し、蒼司も母親に頭を下げ、病室を出た。
嘘をついてしまったからか、後ろ髪が引かれているような気がした。
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