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事務所に着き、元気よくドアを開ける。
「おはようございます」
中に入ると社長と沙幸が眉を八の字に曲げてなにやら不穏な表情をしている。他の社員はまだ来ていないようだ。なにやら嫌な予感を感じ取った菜那は慌てて二人のもとへ駆け寄った。
「おはようございます。あの、何かあったんですか?」
「あぁ、菜那ちゃんおはよう。それがね……」
沙幸が言葉を詰まらせた。絶対に何かあったのだと予感が確信に変わる。
「菜那ちゃん……昨日、近藤様のお宅に仕事にいったでしょう? その、何か変な事はなかったかしら?」
沙幸の代わりに社長が話し始めた。けれどいつもハキハキしている社長がなんだか言葉を選んでゆっくりと話しているように感じる。
「あ、はい。沙幸さんと一緒に行きましたけどゴミの量が凄いくらいで特に変なことは無かったかと思いますが……」
「その近藤様からさっきクレームがあってね」
「クレームですか!?」
その言葉にドクンと心臓が大きく反応した。
「そんな……どんな内容なんですか……?」
昨日の事を思い返すが全く心当たりがない。ただゴミを捨てていただけだ。まさかゴミ捨てしか出来なかった事を怒っているのだろうか。
「それがね、近藤様の大切にしていた腕時計がなくなっているっていうのよ。心当たりはある?」
「腕時計、ですか?」
昨日はたくさんのゴミを処分して、ダイニングテーブル周りのものを片しただけだ。腕時計なんて見てもいないし、ましてやそんな高級なものを勝手に捨てるはずがない。菜那は毎回しっかりとお客様に確認するほどの慎重ぶりだ。勝手に捨てることは絶対にしないと言い切れる。
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