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「腕時計は見ていません」  菜那は社長の目を見てハッキリと口にした。 「そうよね。菜那ちゃんが勝手に捨てるだなんて思ってもないし、ましてや盗むだなんてありえないわ。とりあえず私が直接謝罪にいってくるから」 「えっ、近藤様は私が盗んだかもしれないと思われているんですか?」 「あ……まぁそうね、そういう内容の電話だったわ。そんなことはあり得ないのは分かってるけどお客様に不満を持たせてしまった以上、今から謝りにいってくるわね」  社長はデスク近くにかけてあったコートを羽織り、出かける準備を始めた。菜那は社長の前に立ち深く頭を下げる。 「私も一緒に行きます。盗んだなんてことは絶対にはないですけど、私が招いてしまったことなので同行させてください!」 「菜那ちゃん……わかったわ。一緒に行きましょう」 「はい」  沙幸にすいません、と頭を下げ、菜那は社長の後をついていった。  社長に、会社に迷惑をかけてしまったという申し訳ない気持ちでいっぱいだ。それに、誠心誠意頑張ったつもりのお客様に泥棒扱いされているなんて……泣きそうなったがグッと飲み込んで、菜那はしっかりと前を向いた。きっと近藤もちゃんと説明すれば分かってくれるはず。社長の運転する車の助手席に乗り、途中で菓子折りを買って近藤の家に向かった。
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