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「菜那ちゃん、大丈夫? 今日のところはもう帰っていいわ」
「あ……」
ガタガタと震えて社長の後ろにいることしか出来ず、いつの間にか会社の駐車場に着いていた。ついていったところで近藤の怒りはさらに増し、社長に迷惑しかかけていない自分に悔しさで涙がこぼれそうになる。
「社長……本当に申し訳ございませんでした……」
「いいのよ。私は菜那ちゃんがやったなんて一ミリも思ってないから。今回はちょっと相手が悪かっただけ。いつも優しいお客様ばかりじゃないってことね。家に帰ってゆっくり休みなさい」
肩を優しくポンっと叩かれ、スイッチを押されたように涙が頬を伝った。
「ほら、泣かないの」
「すいません、すいませんっ……」
「気を付けて帰りなさい。私は上に戻るわね」
菜那はコクリと頷いて社長の背中を見送った。
今までクレームというクレームをもらったことのなかった菜那には悪意のこもった怒鳴り声に心をえぐられてしまった。鞄からハンカチを取り出し、濡れた瞳や頬を拭く。泣いている姿を他の人に見られたらまた心配をかけてしまうかもしれない。ここに居ても今は何もできない。大きく深呼吸をして、気持ちを無理矢理落ち着かせた。
「帰ろう……」
ハンカチをしまおうと鞄を開くとスマートフォンがちょうど鳴った。メッセージアプリを開くと樹生からだった。
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