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八章、愛を感じる腕の中ーー蒼司side
煌びやかなシャンデリアの光が二色の大理石で施された幾何学パターンの床をキラキラと反射させている。モールディングを施した白い壁に大きなガラス窓で奥行きがあり、かつ解放感も感じられるロビーラウンジ。
自身が手がけたホテルのラウンジにいる蒼司はノートパソコンを広げて、打ち合わせが終わったクライアントの要望をしっかりとまとめていた。
全部の要望を入れるのは大変そうだな。
ミントグリーンのストライプデザインがお洒落なカップに口をつけ、ブラックコーヒーを一口飲む。
このホテルのオーナーの息子夫婦がマイホームを建てたいとのことで設計を頼まれたのだ。蒼司は大学を卒業し、大手の建築事務所に就職したがそこの会社でもビルなどの大きな建築物を作る会社だったので個人の家の設計は大学の課題くらいでしか設計したことがない。会社を辞め、独立したのは会社の規則に縛られた設計をすることに嫌気がさしてしまったからだ。自分のもっている力や感性、すべてを出し切った建築物を世に送り出したい、その思いから独立して立ち上げたUGY設計事務所。過去の実績やコンテスト受賞歴のおかげで独立後の出だしは好調、ついに大きなホテルまで手掛けることが出来た。
早く帰って作業に取り掛かろう。
立ち上がり、コートを羽織ってホテルの外に出ると木枯らしが吹いていた。タクシーを拾い、寄り道をせずに我が家へ向かう。その道中でスマホにメッセージが届いた。
『今日の夕飯はシチューです』の一文とともにお疲れ様ですと可愛いうさぎのキャラクターのスタンプが送られてきた。思わず頬が緩む。
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