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「もうさ、菜那のこと女として見れないんだわ。なんつーかおかんみたいなんだよね。エコバッグにネギってまさにおかんじゃん」
「なっ……」
それは樹生が風邪をひいたって言うからおかゆを作ろうかと思って買ってきたものだ。心配して買ってきたものをそんな風に言われるなんて思いもしなかった。
樹生って、こんな人だったの……?
毎日一緒というわけではなかったが樹生とは高校も一緒だったし、五年も側にいた。それなのに、自分の目の前にはこの五年で初めて見る樹生の姿に驚きが隠せない。
「ねぇ、もういい加減布団の中苦しいんだけどぉ?」
ばさりと布団から顔を出した女が気だるげに前髪を掻き上げ、ふっと鼻で笑った。明らかに菜那の方を見て勝ち誇ったように笑ったのだ。
「……っ」
菜那の顔が耳まで真っ赤に染まり上がった。今、完全に自分が負け犬になっていることの恥ずかしさと、悲しさと、苛立ちと、何種類もの感情に身体が侵食され視界がぐらつく。
もうこの場にはいられない。
菜那は零れ落ちてきそうな涙を堪えながら走って樹生の家を出た。きっとこの場で悲しみの声を出したらばらばらに崩れ落ちながら泣いてしまいそうだったから。
「なんで……ッ」
どうしてこうなってしまったんだろう?
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