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樹生には自分なりに精一杯尽くしてきたつもりだった。料理の苦手な樹生のために得意な自分が作って、休日は二人で過ごしたり、インドアだったけれどたまに二人で出かけたりするのが凄く楽しかった。樹生も同じ気持ちだと思っていたのに……おかんと思われていたなんて……。
今日の近藤だってそうだ。一生懸命部屋のゴミを捨てて、片づけをして、次の時はもっと早く進められるように頑張ろうと思っていたのに、泥棒扱いされるなんて。頑張った結果がこれとは世の中はなんて理不尽な世界なのだろうか。
「ははっ……うぅ……ッ」
息が苦しい。自分の周りに酸素がなくなってしまったかのように浅くしか呼吸ができない。
全力で走って樹生の家から離れたからだろうか。それとも、苦しい感情に押しつぶされそうになっているからだろうか。分からない。足も疲れた。走る速度はだんだんと遅くなり、菜那の足はピタリと止まった。
「っ……くっ……」
必死で堪えようと思うほど感情が涙になって零れ落ちてくる。真昼間の街中で泣いている女ほど視線を集めるものはない。通りすがりの人の不思議そうな視線をひしひしと感じる。
止まれっ……止まってっ……。
強く思っても瞳から溢れる雫は止まることを知らないらしい。
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