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「はぁっ……っ……」
頬に冷たさを感じた。雨だ。
「天気予報、降るなんて言ってなかったのに……」
折り畳み傘は鞄に入っていない。突然の大雨に周りの通行人も慌て雨から逃れようと走り出している。
ちょうどいいや……。
雨がきっとこの涙を隠してくれる。菜那は歩き始めた。人々は雨に気を取られて泣いている自分なんかに気が付くはずがない。身体を派手に濡らす雨など気にせずにふらふらと家へ向かった。視界も雨なのか、涙のせいなのか分からないくらいぼんやりとしている。
あ、なんか黒い影――と思った時にはもう遅くて菜那の身体は目の前に現れた黒い影に力なくぶつかっていた。
「っと、大丈夫ですか?」
「……っあ」
ぶつかった小さな反動で後ろに倒れそうになったはずの身体が抱きしめられている。頬に冷たい雨の粒を感じない。
「また、会いましたね」
優しい声が頭上に降りそそぐ。ゆっくり顔を上げると菜那を抱きとめてくれたのは昨日、足元を滑らせたときに助けてくれた彼だった。
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