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一章、理不尽な仕打ちと運命の再会
カジハンドと大きく印字された黄色のエプロンを身に着け、堀川菜那(ほりかわなな)は同じ家事代行業者で働いている伊藤沙幸(いとうさゆき)と依頼人の家まで来ていた。
「沙幸さん……現場ってここ、ですよね?」
菜那の綺麗に纏められた黒髪の長いポニーテールが不穏に揺れる。
「え、ええ。住所も名前もあってるわ」
沙幸の声にも不安が混じっていた。沙幸はパーマのかかった柔らかそうな髪を掻き上げ、キリっと表情を作る。同じように菜那もクリっと大きな瞳に力を入れた。身長が大きめの沙幸には敵わないがグッと背筋を伸ばし、155センチの小さな身長をなるべく大きく見せようと努力は惜しまない。
「じゃ、じゃあ菜那ちゃん。気合い入れていくわよ!」
「は、はいっ! じゃあ、押しますね」
菜那と沙幸は庭にまでゴミが散乱している一軒家のインターフォンを鳴らした。
「はい」
年配のガラガラした男の人の声だった。
「こんにちは。今回ご依頼の元訪問させていただきました、カジハンドの堀川と申します。近藤(こんどう)様、本日はどうぞ宜しくお願い致します」
菜那と沙幸はインターフォン越しに頭を下げた。
「あぁ、家事代行のね、今開けますから」
ガチャリと玄関から出てきたのはボテっと太った中年のおじさんだ。
「……どうぞ」
「失礼いたします」
中に入ると予想通りペットボトルのゴミやコンビニ弁当のゴミは散乱していて、正直匂いもツーンと酸っぱいような匂いが充満している。沙幸と「これはやばいね」とアイコンタクトを取り、菜那達はさっそく掃除に取り掛かることにした。
近藤の依頼内容はゴミの処分とキッチン周りの掃除。制限時間は三時間。正直言って三時間で終わる状況ではない。踏み場のない床からほんの少しの隙間から見える木目を見つけては足を降ろし、ゴミ袋を片手に菜那はリビングのゴミをどんどん袋の中に入れていく。沙幸はキッチン周りの掃除に取り掛かった。けれどキッチンにもゴミはたくさん溢れている。
ペットボトルや空き缶、カップ麺のゴミはゴミ袋七袋分もあった。
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