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「す、すいません……」 「いえ、まだ涙が頬に残っていたから、つい。ご自宅は近いんですか?」 「あ、はい……」 「そうなんですね。ちょっと傘をもっていてくれませんか?」  傘を手渡され、反射的に持ってしまった。彼が濡れないように手を伸ばして差していると彼は着ていたジャケットを脱ぎ、菜那に羽織らせた。 「あ、あのっ」 「自宅まで送っていきたいですけど、さすがに成人男性が会ったばかりの女性の自宅まで行くのは怖いでしょう? 気を付けて帰ってくださいね」 「え、ちょっと!」  菜那が断わる隙を与えずに彼は走り去ってしまった。パシャパシャと小さな水飛沫を飛ばしながら走り去る背中に菜那は呟いた。 「……ありがとうございます」  理不尽な世の中だと思ったけれど、やっぱり世界は優しいのかもしれない。たった一人に優しくしてもらえただけなのに、ぱぁっと心が晴れた気がした。  また、明日から頑張ろう。そう思えた。
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