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 今日の天気はあいにくの曇り模様。予報でも一日曇りだった。降水確率は低いものの、菜那は鞄のほかにネイビーの傘を持っている。昨日、名前も何も知らない彼に借りてしまった傘だ。ジャケットはさすがに洗濯機で洗うには難易度が高い高級ブランドのものだったので後でクリーニングに持っていくことにした。  菜那は癌センターでの受付を済ませ、母親が入院している病室へ向かった。 「お母さん、来たよ」  真っ白なベッドに横になっていた母親がゆっくりと顔を上げようとする。昨日、放射線治療をしたからか、今日はいつもより体調が悪そうだ。  お母さん、顔色悪いな……。  毎日仕事に追われていた昔の母の姿はもうない。頬が痩せてしまい、抜けてしまった髪を隠すためにニットの帽子を被っている。 「いいよ、そのまま横になってて。パジャマとか新しいの持ってきたから置いておくね」 「菜那……ごめんねぇ、ありがとう」  母親のか細い声を聞くとたまに胸が苦しくなる。 「いいの、いいの。他に何か欲しいのもある? 売店で買ってこようか?」  病室の角にある棚に洗濯してきた新しいパジャマやタオルをしまった。 「欲しいものなんてないよ。でもそうだなぁ……菜那に早く結婚してほしいわ。樹生くんとはどうなってるの?」  弱弱しい声のはずなのに、菜那の心臓に鋭い矢のように突き刺さった。 「あ~、うん。なんにも変わらないかな」  ――嘘をついた。
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