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「そう……死ぬ前に菜那の花嫁姿、見たいんだけどね……」
「そーゆーこと言わないの! 花嫁姿はそのうち見せてあげるからっ!」
くるっと振り返り、母親に満面の笑みを見せる。
「そう、楽しみだわ」
母親の表情も和らいだがその笑顔に菜那はチクリと胸が痛んだ。今の自分の顔はハリボテの笑顔なのに。
「……ちょっと看護師さんと話してくるね」
嘘をついた罪悪感で苦しくなり、病室を出て壁に寄りかかった。
なんでだろう……。
樹生の名前が出ても何とも思わなかった。もしかしたら自分は樹生のことはそれほど傷ついていないのかもしれない。昨日だって樹生の浮気現場を見てしまった時は感情が嵐のように乱れていたが、家に帰ってからは至って冷静な自分がいた。樹生に浮気されて振られたことよりも二日連続で助けてくれた彼の存在の方が気になってしまっている。
多分、私も樹生に対して気持ちは薄れてたのかもしれないな……。
はぁと小さく溜息をついて天井を見上げた。
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