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本当に、この人はどうしてこんなにも優しいのだろう。自分なんかよりもっと素敵な女性がいるに決まっている。ギュッと胸が締め付けられ、鼻の奥がツンと痛んだ。
「そう、です。私五年も付き合っていた彼氏に浮気されていたんです。彼と結婚すると私は思っていました。でも違ったんです……。だから、恋愛に嫌気がさしたのかもしれません。自分が次に誰かと恋愛するってことも今は考えられなくて、他の事でも頭がいっぱいなんです。それに、また失ったらきっと立ち直れない」
「俺が菜那さんをいつか手放すとでも?」
「恋愛、いつか終わりが来ますよね……? 自分の気持ちがまだ分からないんです。宇賀谷様にこうして思っていただけて嬉しい気持ちはあるんです。でも、すみません……」
菜那は視線を下げた。その先には蒼司に包み込まれている自分の手。この優しい手を一度手に入れてしまったら……無くなってしまうときが怖すぎる。だから自分から握り返すことは出来ない。
「……嬉しいと思っていただけたんですね」
柔らかな声が落ち込んだ頭上に降りそそぐ。そしてグッと身体を引き寄せられ、力いっぱい抱きしめられた。
「う、宇賀谷様っ……」
菜那の両手が行き場を失いさ迷う。
「まだ返事は要りません。よく考えてください。私は長期戦になったって構いません」
「そんな……私はっ――」
「俺が、終わらない恋愛もあると証明してみせますよ」
身体が少し離れ、視線が絡み合あった。真っすぐで、瞳を見ただけで本気なのだと伝わってくる。そっと頭を撫でられ、蒼司の手が頬で止まった。
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