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三章、本物の恋人
心臓が一人でカーニバルを開催しているようだ。ドクドク早く動いてはきゅうっと締め付けられるように痛んだり、とにかく慌ただしく動いている。
「ゆっくりって言ってたのにっ……」
インターホンに伸ばす指先がふるふると細かく震えているが、これは冬の寒さでも恐怖からではない。緊張からだ。
三日前、蒼司に告白され返事は保留にしている。貴方なんてお断り! と言えるような相手じゃないから尚更悩み、なかなか踏み込めないでいた。蒼司は自信のない菜那にゆっくり進んでいきましょうと言ってくれたのに、もうカジハンドの依頼として会うことになっている。仕事なので仕方ないけれど、心の準備期間はかなり短かった。
「でも、ちょうどよかったのかも」
早く伝えなきゃと思っていたことを前回の依頼の時に伝えられていなかったから。
菜那はえいっとインターホンを押した。
「はい、宇賀谷です」
声だけでドクンっと心臓が反応し、痛んだ。いつも通り穏やかな蒼司の声。自分だけが意識しすぎているようで恥ずかしくなりかぁっとと顔が熱くなる。
「かっ、カジハンドの堀川です! 本日もどうぞよろしくお願い致します!」
「ははっ、顔真っ赤ですよ。どうぞお入りください」
「っ――。失礼いたします!」
ゆっくりと開いた自動ドアに菜那は勢いよく入った。まだ数回、けれどなぜか通り慣れてしまった通路を歩き進める。蒼司の部屋の前につくとタイミングよく玄関が開いた。
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