三章、本物の恋人

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「菜那さんに早く会いたくて最短で予約してしまいました」 「そんな……」  蒼司が嬉しそうに笑うのでなんだか恥ずかしさが倍増する。告白され、自分に好意があるとわかった途端に蒼司の気持ちが透けて見えるようになるなんて。自分はどれだけ鈍感だったのだろう。 「寒かったでしょう、どうぞお入りください」 「お邪魔致します」  蒼司は菜那を招き入れた。玄関は散らかっていない。歩き進めてリビングに入ると、散らかって……いなかった。二度、ここに来たがその時はペットボトルやら脱ぎっぱなしの服が散乱していたのに。菜那はキッチンで立ち止まり、部屋を見渡した。 「凄い。綺麗ですね!」  感動のあまり胸元で両手を合わせ蒼司のほうを見ると、照れ隠しなのか頭を掻きながら恥ずかし気に小さく笑っている。 「少しは自分でやろうと思いまして。そしたら来てもらった時に菜那さんは料理に集中できるでしょう? 美味しいから沢山食べたいっていう貪欲な考えです」  素直に嬉しかった。料理を美味しいと褒められ、菜那のことを気づかい、自分の苦手な掃除をしてくれた心遣いも。 「今日の料理も楽しみにしてます」 「はい。頑張ります」 「じゃあ、俺はいつも通り仕事をしていますので、何かあれば言ってくださいね。頼まれていた食材は全て冷蔵庫に入っています」  蒼司が両面開きの冷蔵庫開ける。菜那も一緒になって中身を覗くと事前に頼んであった食材が頼んでいた量より多く入っていた。きっとこれも蒼司の気づかいかもしれない。足りなくなるより多い方がいいと思ったのかもしれない。まだ全然蒼司のことを知らないはずなのになぜかそう思えてしまう。
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