三章、本物の恋人

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「たくさん作れそうです。事前に買い物していただきありがとうございました」  ぱたんと冷蔵庫を閉めた蒼司は菜那の頭に手を伸ばし、ゆっくりと撫でおろした。 「菜那さんと一緒にスーパーに買い物に行くのも楽しくてよかったのですが、出来れば二人っきりの時間が長い方がいいなと思った俺の下心ですよ」  髪に触れている蒼司の手を視線で追うと、そのまま頬で止まり、親指がちょんっと唇に触れた。驚き、目を見開いて蒼司の顔を見上げると、まるで宝石を見ているようなうっとりとした目で菜那を見つめている。  ブラックホールのように、そのまま吸い込まれそうになった。甘い雰囲気に流されてはいけないと菜那はパッと顔を逸らし、キッチンボードの扉を開け始める。 「あははっ、では宇賀谷様の邪魔にならないよう開始させていただきます!」 「はい。宜しくお願い致します」  慌ただしく動いて恥ずかしさを散乱させようとしている菜那を見て、蒼司はくすくすと上品に笑っている。告白されたのは自分のはずで、待たせてしまっているのも自分のはずなのに、なんだか蒼司は余裕そうに見えた。 「じゃあ、何かあったら遠慮なく呼んでくださいね」 「わ、分かりました!」  筑前煮、ネギ塩レモンチキン、鶏もも肉と厚揚げの煮物、キノコの和風マリネは電子レンジで温めればすぐに食べられる。  ドキドキとうるさかった心臓も料理をしているうちに冷静さを取り戻し、料理が全て完成した頃には感情も落ち着いていた。カレーとミネストローネも作り、ジッパーに入れて小分け冷凍保存できるようにする。 「これでよしっ!」  すべてを作り終え、冷ましている間に洗い物を済ませようとスポンジに洗剤を付けた。 「わぁ、今回も凄く美味しそうですね」
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