三章、本物の恋人

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「っ……!」  後ろから蒼司の声が聞こえ、振り返ると上半身裸の蒼司が首からタオルをかけて立っていた。普段から艶やかな黒髪は濡れてさらに光沢を増している。ほどよい筋肉で引き締まった身体、いつもは流されている前髪もお風呂上りだからか掻き上げられていて、普段と違う蒼司に思わずドキっとしてしまった。 「な、なんで裸なんですか!」  まともに見るなんて不可能だと判断した菜那はぷいっと顔を戻し、シンクの中のお皿を手に取った。 「あぁ、これはちょっと煩悩退……アイディアに行き詰まってしまったのでささっとシャワー浴びてきたんです。そしたらいい匂いがするものですから誘われるように来てしまいました」 「何言ってるんですかっ」  背中に感じる熱。シャワー上がりだから尚更感じてしまうのだろうか。恥ずかしさを紛らわすために菜那は次々と洗っていく。 「ん、美味しい。レモンの味がさっぱりしていていいですね」  また蒼司がつまみ食いをしたようだ。横目でチラッと覗くと口をもぐもぐさせている。  また食べてる。でも、気に入ってもらえてよかった。    ふふっと笑みがこぼれた。 「本当に美味しいです。どうしてこんなに俺好みの味なんでしょうか?」 「え? ちっ……」  もわんとした熱気を頬に感じ、横を向くと思わずつるっと皿を落としそうになった。近い。蒼司が腰を曲げ、漆黒の艶やかな瞳で菜那の顔を覗き、捉えている。 「貴女の全てが俺好みなんです」  ようやく落ち着いてきたのに。また、心臓が壊れそうになる。息をするのを忘れてしまいそうになるくらい、蒼司の瞳から目が逸らせない。
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