三章、本物の恋人

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 カジハンドが潰れてしまったら蒼司との繋がりは消えてしまう。今は細い糸一本で繋がっているようなもの。会わなくなったら蒼司も自分のことを忘れてしまうのだろうか。  ――それは嫌だ。 「菜那さん?」 「あ……はいっ!」  名前を呼ばれて我に返り、顔を上げた。 「すいません。俺がゆっくりでいいと言ったのに急かすようなことを言ってしまって。貴女との接点がなくなってしまうんじゃないかと少し不安になって焦ってしまいました」  あ……、私、宇賀谷様と同じ気持ちだ……。 「でもですね」  力強い声に菜那は思わず蒼司を見る。 「結婚したいと思っているのは本当です。菜那さんとの未来を恋人で終わらせるつもりはありませんから」  本気なのだと蒼司の声と表情だけで感じ取れた。未来を見据えた話。自分には無いものをもっている蒼司が眩しく見えたと同時にその光に飲み込まれてしまいたい、そう思った。 「あの、宇賀谷様――」  軽快なリズム音が二人の真剣な空気を壊した。 「菜那さんのスマホじゃないでしょうか? 電話、出てもらって大丈夫ですよ」 「いえ、大丈夫です。後で折り返しますので」 「でも……ずっと鳴ってますし急用かもしれません」  急用という言葉にドクンと身体が脈打った。菜那は慌てて手の泡を水で流す。もしかして、とよぎる不安に並行して心臓がバクバクと鳴っていた。 「すいません。やっぱり電話に出させてもらいます」 「もちろん、どうぞ」  ペコリっと蒼司に頭を下げて、菜那は自身のバッグからスマホを取り出した。  やっぱり――
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