三章、本物の恋人

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 身体の違和感は見事的中した。母親の入院している病院からの電話だ。菜那は震えかける指で通話画面をタップした。 「もしもし――」  カタカタと細かくスマホを握る手が震え始めた。どうしよう、怖い。負の感情で飲み込まれそうになる。 「菜那さん!」 「あ……」  冷えていく身体が優しく包み込まれた。何度も感じたことのある温もりに底に落ちそうになっていた気持ちが段々と這い上がってくる。 「大丈夫ですよ。俺もいますから」  どうしてこんなにも優しい人なんだろう。理由も分かっていないはずなのに、菜那の動作一つで気が付いてくれた。柔らかな声に目頭が熱くなる。蒼司に心配ばかりかけてしまっている自分が情けない。自分がもっとしっかりしないと。  菜那は大きく深呼吸して、蒼司の腕の中からすり抜けた。 「すいません。ちょっと抜けさせてもらってもよろしいでしょうか? 母が入院しているんですけど、少し容体が悪いみたいなので」  その瞳にはしっかり力がこもっていた。 「なら一緒に行きましょう。俺の車に乗っていってください。送ります」 「仕事まで抜けさせてもらうのにそこまで甘えさせて貰うわけにはいきません」 「いいんです。俺も心配ですから一緒についていかせてください。それにほら、強がっていてもこんなに手が震えています」  優しく包み込まれた両手は心は強がっていても身体は正直で、小さく震えていた。 「さぁ、急いで行きましょう」  菜那は声に出すことが出来ずコクンと頷いた。多分声を出したら震えていたと思うから。  地下の駐車場に停めてあった蒼司の車に乗り込み、病院に向かう。今日は生憎の曇り模様、まるで自分の感情とリンクしているような気持ちになった。
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