三章、本物の恋人

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「なんだか雨が降りそうですね」 「けっこう寒いし、雪になりますかね?」 「菜那さん、大丈夫ですよ」  車に乗っている間も蒼司は菜那を励まし、気を逸らしてくれるような会話をしてくれた。そのおかげか、一人でいる時よりも遥かに気が軽く、病院に着いた頃には気丈に振舞えていたと思う。 「お母さんっ」  急ぎ足で廊下を進み、勢いよく病室の扉を開けた。 「あら、菜那。どうしたの?」 「へ……?」  母親はベッドの上で起き上がり、雑誌を開いていた。鼻に管が通り、酸素を入れられているとしてもなんだか元気そうに見える。顔色だってこの前来た時より全然いい。 「え……呼吸が浅くなってるって……大丈夫、なの?」 「全然大丈夫よ。やだ、看護師さん菜那に電話しちゃったの? 心配かけてごめんね」 「そう、なんだ……」  その言葉にガクンと身体の力が抜けた。 「っと、危ない」  足の力が抜けた菜那を蒼司がタイミングよく抱き支える。 「あ、すいません……なんか気が抜けてしまって……」 「大丈夫ですよ」  蒼司を支えに菜那は立ち上がり、母のベッド横に立った。 「お母さん、本当に大丈夫なの?」 「本当に大丈夫よ。ほら、現に今だって暇で雑誌読んじゃってるくらいよ?」  ニッコリと笑って見せてきた雑誌は有名な分厚い結婚雑誌だった。 「ところで、そちらの方は?」 「あ、えっと」 「もしかして……」  ジロジロと母親は蒼司を見ている。  な、なんて説明しよう。仕事先のお客様でいいよね? 現にそうだし……。
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