三章、本物の恋人

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 パチンと手と手が合う音が聞こえた。 「あ、あのね、お母さんこの方は――」 「新しい恋人でしょう! やだぁ、すっごいイケメンじゃない」  キャッキャと喜んで母親は菜那の腰を叩く。こんなに元気な母親は久しぶりに見た。 「ちょっと、お母さんっ!」 「そういうことだったのね~。お母さんに言いづらくて黙ってたなんて水臭いじゃないのっ。これで一安心だわ」 「いや、そうじゃなくてねっ!」 「ねぇ、お名前は?」  何を勘違いしているのか蒼司を菜那の彼氏だと思っているようだ。テンションの上がり切っている母親は菜那の話を遮り蒼司を手招く。 「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。わたくし、菜那さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいています宇賀谷蒼司と申します。お身体の具合は大丈夫ですか?」  ――結婚を前提にお付き合い?  ちょ、ちょっと! 何言っちゃってるの!?  蒼司の発言に慌てている菜那とは裏腹に蒼司は母親との会話を弾ませている。こんなに幸せそうに笑っている母親は久しぶりに見てぎゅっと胸が痛んだ。でも、付き合っているなんてのは嘘。  菜那はぎゅっと蒼司の袖を掴んだ。 「あ、あのっ、宇賀谷――」 「菜那さん、お母様が元気そうで安心しました。とてもお優しいお母様ですね」  蒼司が菜那の声を遮り、そっと自分の元へ引き寄せた。そして耳元で菜那にしか聞こえない音量で囁く。
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