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 昨日降った雪はやはり積もるほどのものじゃなかったようだ。その代わり冬の寒さで地面が凍結していた。アイススケート場、とまではいかないが歩いていてもかなり滑る。何度か滑りかけながら歩いて事務所に向かう途中、自動車が電信柱に突っ込んでいた。 「わ……運転手さんは大丈夫だったのかな……?」  なかなかの酷い光景に思わず足が止まってしまった。  運転免許証は仕事でも車を運転することがあるので就職してから取得したが菜那はいわゆるペーパードライバーだ。免許は取得できたものの、たまにしか運転しないと怖さもあり、今じゃ沙幸に運転を任してしまっている。なにより菜那の運転だと怖くて乗っていられないと言われているので自分でも沙幸が運転した方がいいと思う。  やっぱり運転は怖いなぁ……。  菜那は足に力を入れて滑らないように歩き進めた。なのに、やってしまった。 「きゃっ……!」  慎重に歩いていたはずなのに、つるりと足元が滑り身体のバランスが後ろに一気に崩れる。 「大丈夫ですか?」 「へ……?」  盛大に尻もちをつくはずだった自分の身体がそうじゃない。どこも痛くないのだ。驚いて顔を見上げると見知らぬ男性が菜那の身体を引き寄せ、抱きしめてくれている。  あまりにも一瞬の出来事でなかなか今の状況が整理できずに、目をぱちくりさせていると先に男性が口を開いた。 「昨日の雪のせいで今日は道路が滑りやすいですからね。転ぶ前に助けられてよかった」  ニコッと微笑む男性の笑顔があまりにも優しくてドキッと小さく胸が高鳴った。 「あっ……」  そうだ、滑って転びそうになったんだ、と思いだしたと同時に自分が男性に抱きしめられている状況にようやくハッとした。
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