三章、本物の恋人

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 この気持ちを乗せて無我夢中で蒼司の背中に腕を回した。狭い車内、運転席と助手席の間を隔てるボックスがこんなにも邪魔だと思ったのは初めてだ。もっと、もっと彼に求められたい、求めたい。もっと貴方の事が深く知りたい。  ゆっくりと離れていく熱さが名残惜しかった。だから、もう一度自分からキスをした。キスをする直前、目を閉じるとき、蒼司の顔が驚いていたような気がする。自分からするのは唇を重ねるだけで精一杯だった。でも、はっきりと気持ちを伝えたい。菜那はしっかりと蒼司の瞳を見た。 「結婚したいです。……宇賀、蒼司さんと、わ、私でよければ、なんですけど」 「……あ~、こんなの反則だ」 「え? 雨の音でよく聞こえなかっ……あっ……」  抱きしめられ、耳元で蒼司の嬉しそうな声が鼓膜に響いた。 「菜那さんじゃなきゃ嫌なんですよ」  嬉しすぎて声も出なかった。  何かを失うことは怖い事だけれど、こうしてまた恋が出来たことがこんなにも嬉しいなんて。菜那は背中に回した手にぎゅっと力を込めて、抱きしめ返した。
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