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「す、すいません! 助けてもらってしまって! 助かりましたっ」  慌てて男性から身体を離し、菜那は勢いよく頭を下げる。穴があったら入りたいとはこういうことを言うのかと、一気に羞恥心が湧き上がり自分でもわかるくらいに顔が熱かった。多分、今顔を上げたら耳まで真っ赤に違いない。 「いえ、間一髪ってところでしたから、もしかしたら間に合わなかったかもしれないですし。では、気を付けてくださいね」 「はいっ、本当にありがとうございました」  彼が立ち去るのを見送ろうと顔をあげると、ばっちりと目が合ってしまった。  わ……。  かっこいい。サラサラな黒髪と同じ漆黒の瞳は色気のある切れ長の双眸で、前髪が流されているから切れ長の瞳がよく見える。高い鼻梁にすっきりとした顎と首筋は男性的なラインで魅了されてしまうほど。しなやか色気をまといながらもクールな印象の彼だが、さっき見せてくれた笑顔は物凄く優しい表情だった。  肩幅の広い、大きな背を向け、彼は歩いて行ってしまった。スーツ姿だから、どこかの会社員だろうか。  ……優しくて、素敵な人だったな。  そう思いながら菜那は一歩一歩、さらに気を付けながら歩き進めた。
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