29人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「触媒と、あなたの召喚士としての力を込めた言霊……つまり呪文ですね。それと呼び出したいという強い思いの三つの力が合わさり、その相乗効果で召喚は成されます」
クロードは、三つの輪を上、右、左に少しだけ重ねて描いた。重なった部分に斜線を入れ、更に上の輪には「触媒」、右の輪に「呪文」、左の輪に「思い」と書き加えた。その後に、一旦輪を書き直し、重なった部分を狭めた図も描いた。
「来てほしい相手があなたの呼び出しに応じるには、より合った触媒、適切な呪文、明確なイメージが決め手となります。それがより的確だと、この重なった部分が狭まり、条件に見合う者が限定されて召喚されるというわけです。でも、曖昧なもの、適当なものだとそれに該当する者なら誰でもOKになってしまい、あなたの召喚は上手く行きません」
「ふうん。そういうもんなんだ」
知己が素直に感心していると
「……あなた、今まで一体どんな修行を?」
思わず、クロードがさっきから抱いていた疑問を尋ねた。
「基本は、掃除。本当は『居るだけでいい』って言われたんだけど、それじゃ悪いから色々しようと思ったよ。でも『料理だけは絶対にしないで』って厳しく言われた」
「それ、修行って言うんですか? ……というか、あなたの師匠が誰か分かった気がしましたよ。一番最初に『ナ』が付く人でしょ?」
クロードが呆れたように言い、眉根を寄せた。
「だって、俺、本来は高校理科教師だぞ。科学的に証明されたものや自分で見聞きしたものが全ての世界で生きてきたのに、マジで♪お化けなんてないさ♪だったのに。魔法の世界とか、ぶっちゃけよく分からない」
「……つまり、誰よりも現実主義者だったと解釈したらいいのでしょうか」
「そうしてくれたら、有難い」
「現実主義者のクセに、若葉マークのド素人召喚士ですか。どこまでもミスキャストでしたね」
「うるさいな。それでも俺に呼ばれて来たくせに」
「確かに……。今のは諸刃の刃でした」
クロードは自分が言ったことにか知己の招きに応じたことにか、とにかく後悔していると、
「俺は、卿子さんを召喚できたらそれでいいんだ」
知己は青緑だか紫だかオレンジだか、極彩色を放つ謎の液体が満たされた壺に向き直った。
最初のコメントを投稿しよう!