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ハロウィンの夜に
ぼふーんという大きな音がすると、建物が激しく揺れた。
「やったぞ!」
もうもうと立ち込める青緑色の煙の中に、呼び出した何者かが蠢く気配を感じ、知己はようやく召喚魔法に成功したことを実感した。
喜び声を上げたのは、つばの広い帽子を被り黒衣を纏った平野知己であった。彼の目の前の大きな壺には、師匠が調合した召喚用の液剤が沸騰している訳でもないのにブクブクと不気味な泡を吐き出していた。
召喚士の修行を重ねて早●年。
今日は、師匠の許可が下りたので、念願の召喚を試みたのである。
一言で「召喚魔法」と言っても、とてもデリケートなもの。ひとつとして要素が欠けても、成功はしない。
それが10月31日……今宵は、ハロウィン。
日本で言う所のお盆である。日本では「お盆は地獄の釜の蓋が開いている」という。「そんな日なら、この世ならざる者も呼び出しやすいのでは?(※)」と師匠は軽く考え「ま。そろそろやってみたら?」と知己に言い残して、自分は無責任にもさっさと出かけてしまった。
師匠が居ない不安はあるが、せっかく許可が下りたのだ。
これまで修行で培ってきた知識・霊力をフル動員し、魔力満ちたハロウィンの夜というバフを得て、知己は召喚に臨んだのである。
召喚に応じた者が、高窓から差し込む月光を浴びて、キラキラとまばゆく金色に光った。ようやく立ち込めていた煙がうっすらと晴れ、知己は呼び出し第一号を確認することができた。
(※)「ハロウィンの夜は召喚しやすい」:2023年10月私調べ。
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