さよなら、壊れた僕の哀しいせかい

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「クセェぞ、オマエ」    ショーマに言われて、僕は自分の熱っぽさに気づいた。  すこしだけ、体温が上がっているみたいだった。念のために体温計を咥える。 「発情期までは、もうちょっとあるだろうが? あ?」  ピピッと電子音がして、僕は体温計の液晶を眺める。  あ、やっぱりだ……。 「そろそろ、『来る』かも」  最近、何だか安定しないんだ。「せーりふじゅん」ってヤツだ。 「ったく、ざけんなチクショウ。匂い、どんどん強くなってきてやがるぞ。『お籠り』の準備なんぞ、まだ、してねぇからな」 「……ごめん、ショーマさん」    とりあえず謝る。怒らせると面倒だ。    ショーマ、漢字は「将馬」。  まるっきり「アルファみたいな名前」じゃね?   それを最初に聞いたときの、僕の感想。  でも、ショーマはベータだ。  ただの「普通の」男。名前負けしてる「ただのチンピラ」。  そしてショーマは、舌打ちしながら部屋を出ていく。  発情した僕をしばらく閉じ込めておくために、必要なものを買いにいったんだろう。  水とか食料とか、ベッドに敷く吸水シートとか、コンドームとか。  グワリ、と、背筋に熱がこみ上げてきた。   「あ、ヤバ……」  なんでこんな、急に来るんだよ?  ダラリと生暖かい感覚が、チノパンの中、内腿を伝って床に滴り落ちてくる。  「後ろの場所」が、普通の状態から「生殖器」としての機能へと作り変えられていく。  そのための分泌液。  ゾクゾクと胎内が疼いて、目の前に閃光が走った。  粘液にまみれた服と下着を脱ぎ捨てる。  いますぐ、ベッドに横になって、シーツにペニスを擦り付けたかった。  でも、まだ「準備」ができていない。    「キッタネェ汁でベッド汚してんじゃねぇぞ! この糞オメガ!」  ショーマにそうやって罵られて殴られるに決まってたから、僕はその場に――冷たい床の上にくずおれる。  そのまま転がって、粘液まみれの尻の割れ目に指を伸ばした。 「ああぁぁっ……っ」と、声が洩れる。  もう性交のことしか、考えられなかった。  腹ばいになって腰をうねらせ、後孔に指を突き立てる。  じゅぽじゅぽと、激しい水音をさせながらよがりまくっていると、玄関のドアが開いた。 「クソッタレ! なに、もうおっぱじめてやがる?!」    ドスドスとした足音が床から響いてきて、僕はショーマに顎を蹴られた。 「ザーメン出してんのか?! ぁあ?」  肩を足先で引っかけられて、仰向けにされた。  ショーマが、僕のペニスにコンドームを着ける。 「ったく、ムダ弾打つんじゃネェって言ってンだろう?! 発情期にしか射精デキねぇクセしやがって、このっ、役立たずが!!」 「ご…めんなさ、ゴメン、ショーマさ…」  かろうじて謝って。  でも、僕の頭は、ほとんどマトモな考えを紡がない。 「あ、ほし……っ、ほしいっ、ちんぽ、ほしいっ、後ろ、アルファのちんぽ、奥まで…ぇ、いっぱ…い」  泣きながら、芋虫みたいに身体をのたうつ。 「ウルセェ、黙れ。クソガキ、淫乱マンコ」  ひたすらショーマに罵られても、僕の声は止まらない。 「あ、あっ、ジンジン、とまらな……あつい、おしり…っ」  トポリと、潤滑液が溢れ出す。  床を盛大に汚してしまった。案の定、ショーマがキレて、僕の腰を蹴り上げた。 「だから、くっせぇエロ汁、トコロかまわず撒き散らすなって言ってんだろうが!」  防水シートを敷き詰めたベッドの上に引きずり上げられて、僕は頬を二、三発、ショーマにビンタされる。 「いれて、いれて、チンポ、じゅぽじゅぽ、して……」  指は四本入ってる、でも全然足りない。 「におい、嗅ぎたい、アルファの、におい……えっちな、におい」  バカみたいだ。どうしようもないんだ。  苦しい、くるしいよ。たすけて、ショーマ。   「あるふぁのせいし、いっぱい、ほしい、おくに、いっぱい、あかちゃん、はらみたい」 「ったく、役立たずの『うまずめ』が、なに言ってやがる」  そう吐き捨てるやいなや、ショーマはクローゼットを開けて服を掴み、バサリと僕に投げつけた。 「あ……ん、におい、いいにおい、アルファのにおい……」  言いながら、僕はそれに顔を埋める。  「オメガの体臭付き衣類」なら、割と手に入る。  探せば割と、どこかで売られていた。  オメガのフェロモン臭は、アルファのみならず、ベータでも愛好者が多いからだろう。  そしてオメガにとって、それは「てっとりばやい」小遣い稼ぎになる。  でも「アルファの」は、なかなか手に入らない。  大抵の場合、アルファの経済的社会的地位は高い。  だから、そんなモノを売る必要なんか、全然ないし。  けどさ。  どういうツテなのか、ショーマは「それ」を、「ごくたまに」だけど、手に入れてきてくれた。  その数少ないアルファの衣類で、僕はいつも「巣作り」の「真似事」をする。  スンスンと匂いを嗅ぎ、涎を垂らして、腹ばいに腰を蠢かせた。  そして、「ちんぽ、ちんぽほしい」と、うわ言を洩らし続ける。    すると、ごく乱暴に腰を掴まれた。  膝の間に、脚が割り入れられる。   「ったくよぉ……『ちんぽちんぽ』うるせぇんだよ!」  ショーマが、イラ立ちに満ちた声で、僕の耳に噛みついてきた。  そしてミチミチと、ナカに熱棒が侵入してくる。 「……あ」  僕の声は、僅かに悦びを纏う。 「オメガのケツマンコなんぞ、気色ワリィもんにブチ込まされる、こっちの身にもなりやがれ」   罵りながら、ショーマが激しくピストンを始めた。  パンパンと肉を打ち付ける音が続く。 「ああ、クソ忌々しい、この匂いのせいだ。なよっちいオスガキのケツに、どうにもチンコが勃っちまいやがるのはよぉ」    なじりながら、ショーマが僕の首を両手で掴む。  ああ、締められる――  後孔は、もうグズグズに感覚がなくて。  でも、ベータのちんぽじゃ、どうしても満足できなくて。  そのまだろこしいせつなさは、耐え難い苦しみに変わるから。  だったら。  ――首を絞められた方がいい。  息ができないほど、締められた方がいい。  達したショーマが絶叫する。  熱液が、胎内にぶちまけられる。  そしてそれは何度か続く。  そうやってショーマに、どれだけ大量のザーメンを注がれても僕は孕まない。  ついにショーマに限界がきて、萎えたペニスが孔から抜かれた刹那。  僕は射精した。 *
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