さよなら、壊れた僕の哀しいせかい

1/6
前へ
/6ページ
次へ
 自分が「子供が産めない」ってことは、かなり早い段階で分かっていた。  オメガ性が判明すると同時に、半年ごとのヘルスチェックが義務化され、その結果は、保健所に同報される。  この件については、包括健康基本法が制定されるとき、日弁連とか海外の人権団体とかが、ひとしき異論を述べ立てたようだけど。  もちろん、それは形だけに無視されて、法案は閣議決定どおり、瞬速で可決された。  つまりは、オメガにとって、身体の自己決定権、自身の身体情報などとという、究極的なプライバシーは、国に筒抜けになるってコトのようだ。  市澤瑞貴(いちざわ みずき)  生年月日:皇雅四百九十四年十一月十一日 二十二歳  性別:Ω男性。  初兆(ヒート):十六歳三か月時。  特記事項:生殖機能案件 有  健康基本カードに記された、僕の情報。  そう。僕は子供が産めない。それが「生殖機能案件」。  要は「ゴミ」ってこと。  この特記事項のせいで、オメガが国から与えられるはずの、数少ない補助や補償、特典の類からも除外される羽目になっている。  それ以外は、僕は「何の変哲もない」オメガだ。  ありきたりだけど、幼い頃から虚弱な身体で。  第二次性徴期にも、男性らしい肉体になり切らぬまま、なんならアルファ女性の身体能力にもかなわないくらいだ。  初兆のときから、発情(ヒート)の制御がひどく難しく、保険適用の薬は、どれも身体に合わなくて、学校の授業にも遅れがちになった。  とにかく、僕の体臭は強くてさ。  発情期が近づく頃には、アルファどころかベータにもギラついた視線を浴びせられる始末。  そして、「その事」から想像されるとおりに、僕の「性欲」もひどかった。  発情が来れば、雄を誘う匂いを発しながら、ダラダラと下腹部を濡らして。  後孔にクスコとディルドを挿入したまま、アクメをキメ続ける。  そんなこんなで、学校の成績は最悪。  年の半分は、マトモに通学できやしなかったのだから、仕方がないと言えば仕方がない。   当然、大学進学もままならず、マトモな職歴を重ねることもできず。  まあ、普通の人間としても、相当に「脳無し」の男が出来上がったってワケだ。    *
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加