アップルパイと焼き芋

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アップルパイと焼き芋

 それから後のことはよく覚えていない。  俺は丸2日、寝込んでいたらしい。  次の土曜日、颯太のうちに遊びに行った。  颯太のお母さんは、アップルパイを作って待っていてくれた。 「それにしても不思議な話よね。颯太の目の前で哲也君が消えちゃうなんて。おまけに哲也君は家で寝てたんでしょ?」  そう、俺には神社の行き帰りの記憶がない。颯太が「哲也が消えた!」と大騒ぎしたので皆で探したら、結局俺はパジャマで家に寝ていたという。病院に連れていかれて、インフルエンザだとわかった。 「きっと俺、『龍神の舞やりたい!』って思いが強くてさ、六ちゃんみたいに生き霊になったんだよ!」  ドヤ顔で言ったけど、颯太のお母さんは心配そうな顔をした。 「あのね哲也君、源氏物語ってホントの話じゃないからね」 「うっそ!? え、じゃあ生き霊ってのも……」 「作り話よ」 「えぇー……」 「体、なんともない?」  そう言われると、ちょっと怖くなったけど。 「――生き霊でもなんでも、哲也が一緒で僕、嬉しかったよ」  颯太が言った。 「まぁそうよね、哲也君、ありがとう」 「いや、こっちこそ颯太には助けてもらったし……」  2人はにこにことこちらを見ている。  俺は胸がいっぱいになって、涙が出そうになって……アップルパイを食べてごまかした。
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