風邪

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風邪

 気分が悪い。食欲がない。たぶん風邪。  こういう時は、病院に連れて行かれた後、寝てなさいって言われる。  でも今日はまずい。舞の本番なんだ。  どうにかごまかさないと。 「哲也、あんまり食べてないね。どうした?」 「あー、ええと、ちょっと緊張して……」 「そうなの?」    母さんが、俺の後ろに立った。  もしかして、熱があるかおでこに手を当てるつもりじゃ。  やばい、と思った次の瞬間。  背中をバァン! とたたかれた。 「自信もって! 昨日の練習、上手にできてたじゃない!」 「痛いよ」 「気合注入よ。今日は何時集合かわかってるわよね?」 「わかってるって。5時でしょ」 「そうそう。お昼ご飯作ってあるからね。お母さんは婦人会で炊き出しとか準備があるから先に出るわ。お父さんは仕事だし、あんた一人で神社来れるわよね?」 「大丈夫だって」 「お母さんもお父さんも、ちゃんと舞台に見に来るからね」 「わかってる。もう、小さい子じゃないんだから」  そう言うと、母さんは俺の頭をくしゃくしゃにして、「ふふふ」と笑って掃除機をかけにいった。なんなんだ、もう。  皿を片付けて外を見ると、じいちゃんが畑仕事をしていた。その後はテレビを見たり、昼寝をして過ごして、夕方には一人で神社に行くだろう。自分のやりたいように過ごしているから、「じいちゃんと一緒に神社に行くか」なんて言われる心配もない。  となると、ギリギリ休めるのが4時までってところか。  俺は自分の部屋に戻った。あったかいパジャマに着替えて、布団にもぐる。  目覚ましのアラームを4時にかけた。  今日だけは、マンガを読んでごろごろしない。  ゆっくり休めば、よくなるはずだ。  そうして俺は、目を閉じた。
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