風邪

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 いつもはこんな時間に寝ないから、なかなか寝付けなかった。  それでもじっと待っていると、やがて眠気がやってきた。  完全に寝入る前、母さんの「行ってくるね!」という声に、「んー!」と返事をした、気がする。  そこから、深い眠りについた。夢も見なかった。  目覚ましが鳴った。  とめる。  とめるけど、体は熱いままだ。 (嘘だろ)  目の前が真っ暗になる。長く寝たら良くなると思ったのに。  無理矢理立ち上がった。ふらつく。汗をかいて気持ち悪い。体がぞわぞわしている。 (でももう行かなきゃ)  ここ数カ月の練習が頭をよぎる。  何度も聞いた笛の音、体に響く太鼓のリズム。  優しく教えてくれる大地君、隣で舞う颯太。  俺が行かなきゃ颯太は心細いはずだ。  なのに、体が言うことをきかない。また布団に倒れ込んだ。  その時、颯太との話を思い出した。 「それだけ思いが強いってすごいよね」  颯太が感心して語った、源氏物語の六ちゃんの話を。  魂が飛ばせたらいいのに、と思った。
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