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 目を開けると、和室に俺は立っていた。  ざわざわと、たくさんの人の声が遠くに聞こえる。  ドタドタと足音がして、障子が開いた。   「哲也君、ここにいたの! よかった」  駄菓子屋のおばさんが駆け込んできた。 「早く支度しないと」  おばさんが俺を着替えさせる。前を向いたり後ろを向いたりするうちに「ほら、できた」と鏡の前に連れて行かれた。龍神の衣装だ。青い布に金色の模様が入っている。面もつけて、準備万端だ。 (そうか、俺、間に合ったんだな)と思った。   だけどなぜか声が出ない。  お礼にお辞儀をすると、「ほらこっち」とおばさんは俺の手を引いた。小さい子みたいで恥ずかしかったけど、まわりがよく見えないから助かった。  舞台袖に颯太がいた。赤い衣装に、頭には黒くて長い帽子をかぶっている。 「哲也!   よかったー。俺一人で舞うのかと思った」とほっとしている。 「あとちょっとで出番だよ。おさらいしとかなくて大丈夫?」  俺はうなずく。 「ああ、いたいた」と大地君もやってきた。 「二人とも、しっかり練習したから大丈夫。あとは、気持ちだよ。  がんばれ!」  そう言って、肩をたたいてくれた。   「行くぞ」「がんばろうな」と演奏の大人たちが言って、舞台に出ていく。  観客の拍手が聞こえる。  颯太が出る前に、俺たちはしっかり視線を合わせて、同時にうなずいた。
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