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俺たちの龍神の舞
ドドン!
太鼓が鳴り、笛の音が響く。
シャラララ……と鈴が鳴り、颯太が深くおじぎして、ゆっくり顔をあげる。
四方の隅に移動し、扇で天をあおぐ。
若者が「ここにも雨が降らない、ここにも降らない」と悲しむ姿だ。
やがて、若者は天に向けて雨ごいをする。稲のために、皆のために、恵みの雨をくださいと。
「あとは、気持ちだよ」って、さっき大地君は言った。
俺が最初に龍神の舞にあこがれたのは、かっこいいからだった。
颯太と友達になれて、2人で舞ができることも嬉しかった。もっとかっこよくなれると思った。
だけど。
大地君も大人たちも、何度も一緒に練習してくれた。あの場には颯太をよそ者扱いする人はいなかったし、俺が失敗しても丁寧に教えてくれた。
ありがたいな、と思った。
鈴がシャン、シャン、シャンと3回鳴り、俺は舞台に進み出た。広げた扇を上に下に動かす颯太の隣で、同じ動きをし始める。
舞台前には、たくさんの人がいる。
母さんがいる。父さんがスマホをこっちに向けている。
最前列には美羽と小太郎。目がきらきらしている。
くるりと回って、立ち位置を変える。
学校の先生がいる。集落の人たちも。
その中に混じって、じいちゃんが立っていた。
(見てる? じいちゃん。
颯太、俺とちゃんと踊ってるよ。俺より上手いんだよ。
俺と同じ村の子なんだよ)
立ち位置を変えるとき、すれ違った颯太から「右足からだよ」と小さな声がした。
俺は、はっと我に返り――右足から踏み出せた。
(できた!)
ここを間違えなければ、あとは流れでスムーズにできる。
太鼓の調子が速くなる。けど、ついていく。ドンドンと足を鳴らす。
俺は、この村に恵みの雨をもたらす龍神だ。
若者の見事な舞にひかれて現れ、一緒に舞い、最後に雨雲を呼び寄せる。
雨は豊作をもたらす。
村の皆を幸せにするために、2人で舞うんだ。
そこからは無我夢中だった。
気が付けば舞台袖にいた。最後のお辞儀をした颯太も、大きな拍手の中、笑顔で俺のところに戻ってきた。ハイタッチする。
「哲也、やったね!」
うんうん、と俺はうなずく。
颯太もすごかったよ、と言いたかったけど言葉が出ない。
急に目の前が白くぼやけ始めた。
意識が遠のいていく。
「哲也!?」
最後に、颯太の声が聞こえた。
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