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生き霊
「いきりょう?」
「そう、生き霊」
颯太は力強く言った。
「六ちゃんは元カレの光源氏の奥さんに焼きもちやいて、夢に化けて出るんだよ。
家は離れてるんだけど、魂が体を離れて夢に出てくるわけ」
「ホラーじゃん」
「そうだけどさ、お母さんは『それだけ六ちゃんの思いが強かったのよね』って言ってて、確かにそうだなって。スマホもZoomもない時代にすごいよね」
「すごいけどさ、さっきから『六ちゃん、六ちゃん』って、本当はそんな名前じゃないだろ、その人」
「本名はろくじょうのみやすどころだよ」
「なっが。毎回呼んでたら疲れるな」
「でしょ?」
俺、哲也と颯太は学校の帰りだ。学校には生徒が5人だけ。小4の俺と颯太、1年の美羽、2年の小太郎、それに中2の大地君だ。
学校から家がある集落までは毎日歩いて1時間かかる。慣れっこだけど、颯太から「前の学校は10分で着いてたよ」と聞いてびっくりした。都会は便利でうらやましい。
颯太は4月にこの村に引っ越してきた。歴史が好きで、話が面白い。俺は橋から川に飛び込む場所や、食べられる木の実、カブトムシが集まる木を教えて、すぐ仲良くなった。
同い年の友達ができて俺は本当にラッキーだ。美羽はまだ小さいし、小太郎はすぐべそをかくし、大地君は勉強が忙しくてあんまり遊べなくなってきた。
颯太がいると、張り合いがある。
それに――2人いるから今年は奉納祭で龍神の舞を一緒に踊れる。ずっとあこがれてきた、あの舞を。
「じゃあまた、公民館で」
田んぼの中の十字路で、颯太が手を振る。
「おう、またな」と俺は軽く片手を上げた。
今日は7時から、舞の練習だ。
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