壱  咲けよ萩

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「玄瑞!おはよう。」 「ああ、おはよう。」 大柄な男に小柄な男が話しかけた。 「杉蔵は?」 「す、杉蔵?知らねえな。蓮華のとこじゃねえの?」 「そうか。すまないな。」 大柄な男が去っていくと小柄な男は呟いた。 「杉蔵だけかよ。」 と、寂しそうに笑った。 大柄な男は屋敷の縁側に腰掛ける二人の男女の方へ歩いていく。 「蓮華、杉蔵。おはよう。」 「玄瑞。おはよう。」 杉蔵、もとい入江杉蔵。 玄瑞、もとい久坂玄瑞。 蓮華、もとい曉河蓮華。 「玄瑞?どうした?」 蓮華は、眉間を抑えながら聞く。 「どうしたんだ。仲間のところへ行くのに理由を要するか?」 「別に。」 誰も彼女が、 (気配消して近づかないでほしい。。。) と思っていたことは気が付かない。。。。 正直玄瑞が気配を消して近づかれたとき、鯉口を切りそうになった。 それに、あの鏡を持っていいるか、存在を認識しないと脳が混乱する。 玄瑞が近づいたとき、もう何回も見て見飽きた光景が脳に移される感覚があった。 燃え盛る炎。ただパチパチを静かな音が流れる光景。 鷹司邸。 そこにいるのは、玄瑞、杉蔵。そして同じ松下村塾生の寺島忠三郎。 お互いに何かを話すと笑い合って、目を閉じ、切腹する。 幸い?玄瑞と杉蔵は同じ時に死ぬ。 だから二人で歩いてきても混乱はしない。でも声が重なる。だから混乱する。 そう。私は生まれつき、人の死に様が見える者だった。 幼い頃はどれだけこの能力に苦しめられて、自らを恐ろしく思ったことか。
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