ママロボット

1/3
前へ
/12ページ
次へ
 あたしがまだ施設に来たばかりの頃、ママロボットに聞いたことがある。 「ねえ、あたしのこと好き?」  ママロボットは、胸の下で組んでいる機械仕掛けの手をカチャカチャと鳴らして――申し訳なさそうな人工音声を発した。 『すみません、ミユキ。わたしはロボットなので、だれかに特別な感情を持つことがありません』  あたしは、別にがっかりもしなかった。薄々そうなんじゃないかと思ってたんだ。  ママロボットは見るからにロボットだし、施設にいる子供たちをみんな、いい子も悪い子も、素敵な子も素敵じゃない子も、それから新入りのあたしのことも、平等にお世話する。  あたしは、そんなママロボットを信頼していた。  本当のママとは真逆だからだ。  うちのママは、弟のことばっかり大事で、あたしのことはちっとも好きじゃなかったみたい。  ちょっと目があっただけで、トサカを逆立てたニワトリみたいに怒って、たたいたりつねったりしてくる。  ごはんは一日一回くれてたんだけど、それも三日おきとかになって、ちょっと思い出したくない嫌なことが他にもいろいろあって、結果、あたしは施設で暮らすことになった。  あたしは、ずっとビクビクしていた。  ママと弟と暮らしている時は、ママのことだけ警戒していればよかった。  でも、施設にはあたしと似たような境遇の子たちがたくさんいて、中にはうんと意地悪な子や、力の強い子もいる。  ちょっと気を緩めたら、なにかひどい目に合うんじゃないかと思ったのだ。  だけど、ママロボットのことは警戒せずに済んだ。  だって人間じゃないから。  はじめて会った時は、大きなボウリングのピンが浮いているのかと思った。  ボディは真っ白で、頭・肩・胸・腰の凹凸で、かろうじて女のひとなんだなってわかる。  ディスプレイでもある顔は、のっぺりした白塗り。  足は、ない。物知りなジュンが言うには、ママロボットは風と磁石の力で、ちょっとだけ浮いているらしい。 「ママはすばやいんだ。摩擦抵抗がないから、音も立てず、スムーズに動く」  そう説明するジュンは、自分のことでもないのに妙に自慢げだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加