01.カフェ・レインキャッチャー

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01.カフェ・レインキャッチャー

 とある地方都市の片隅に、レインキャッチャーという名のカフェがある。数年前までは別の名前をした、なんともレトロで古風な喫茶店だったものの、その喫茶店を長年営んでいたマスターが高齢と病気を理由に店を閉めた。  街の憩いの場所だった喫茶店の火が消え、常連客たちは寂しい思いを抱いていた。ところがそこに、新しく若いマスターが閉店した喫茶店をリニューアルし、なんともモダンなカフェとして再オープンさせた。それがカフェ・レインキャッチャー。  今では喫茶店だった頃の常連客に加え、新しい常連客も増えたこの店に街の人々が日々集い、それぞれのリラックスした時間を過ごしている。マスターが淹れたコーヒーや手作りのケーキを味わいながら。  マスターはコーヒー豆の並ぶ棚を前に少々困り顔を浮かべる。このカフェはコーヒー豆も販売しているのだけれど、普通の値段のコーヒー豆は普通に売れるが、特別な価格で仕入れた特別な豆はほとんど売れない。この店の目玉にしようと考えていたのだが。  それもしかたない話だとマスターは考える。ほとんどの人はコーヒー豆の種類にさほど興味はない。それは当然のことで、普通のコーヒー豆でいかに美味しいコーヒーを抽出できるかがマスターの腕の見せ所でもある。  それでも。
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