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10.かえって逆効果だと思うけどね
「ありましたねえ。小学校の時に靴箱から誰かの靴がなくなった!ってやつ。それでみんなで探しまわるんですよ」
晴人くんの言葉に、中村さんはまた苦笑する。
「今から考えると、いじめだよね。意地悪な奴がいるんだよ」
「でも、ほんのささいなイタズラだったのかもしれないですよ」
晴人くんがそう言うと、中村さんは不思議そうな顔を浮かべる。
「そう?」
「たとえば、好きな子の気を引こうとして、靴を隠すんです」
晴人くんの言葉に、中村さんはますます不思議そうな顔。
「なんでそんなことするんだ?」
中村さんの疑問に晴人くんはこたえる。
「それでその子の靴を自分で見つけるんです」
「どういうこと?」
中村さんはますます混乱した顔。マスターは静かに会話を聞く。
「つまり、靴を見つけた自分をカッコよく見せたいんですよ」
中村さんは深いため息をついた。当然だろう。
「そんな自作自演がバレたらどうするんだよ。かえって逆効果だと思うけどね。相手が好きな子だと口もきいてもらえなくなるぜ」
中村さんがあきれたように言った。マスターも同感だった。
「まあ自分の話じゃなくて、友達の話ですよ」
カップに残った最後のコーヒーを飲み干した中村さんは、晴人くんのそんな言葉に苦い表情を浮かべた。
けっきょくなんの手がかりも得られないままか。諦め気分のマスター。そのとき、帰ろうとしていた中村さんがマスターに告げる。
「ねえ、店の入り口にさ、忘れ物預かってますって書いてればいいんだよ。メニューを貼り出してるでしょ? その隣にでもさ」
「そうですね、思いつきませんでした。さっそくやってみます。ありがとうございます」
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