12.コーヒー豆の缶が並ぶ棚のいちばん隅

1/1

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

12.コーヒー豆の缶が並ぶ棚のいちばん隅

「自分への贈り物ってなんかいいですね」  元宮さんが箱を抱えて帰っていったあと、晴人くんがマスターにそう言った。 「君も好きな女の子の靴を隠してる場合じゃないんだよ」 「いや、あれは自分な話じゃなくて友達の……」 「そうだ、いいこと考えた」  晴人くんの言い訳を遮るように、マスターはなにかを思いつく。  翌日、店の入り口に出している看板に、新しい貼り紙が現れた。忘れ物を預かっていますという貼り紙があった場所に。 『自分への贈り物に、特別なコーヒーはいかがですか』  そんな貼り紙を貼り出し、マスターは満足して今日も店を開いた。 「この店に特別なコーヒーなんてあったんですか?」  昼間のアルバイトの山崎さんがマスターにたずねた。ランチタイムの準備を進めながら。マスターはコーヒー豆の缶が並ぶ棚のいちばん隅を指さす。 「そりゃあるよ。高価なコーヒー豆なんだけど、普通に売っててもなかなか売れないからね。こんなふうに売り出せばいいって気づいたんだよ、昨日の夜にね。大発見だよ。借金だってあるからさ」  そんなわけで、カフェ・レインキャッチャーは『自分への贈り物』として、高級なコーヒー豆を売り出した。また新しい店の一歩として。 (おわり)
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加