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02.そうしているあいだにも
なかなか減らない高価なコーヒー豆を目の前に、マスターはため息をつく。そのとき、夕方のアルバイトの晴人くんが出勤してきた。入れ替わるように昼間のアルバイトの山崎さんが帰っていく。
「どうしたんですか?」
困り顔のマスターに晴人くんがたずねる。
「うん、この店の目玉にしようとしていた特別なコーヒー豆が出ないからね。豆も売れないし、コーヒーも出ない」
「そりゃ高いからですよ」
晴人くんがあっさりと言った。はっきりそう言ってくれるくらいがちょうどいい。
「まあそうだね。でも、コーヒー豆だって食品だからね。ここにいつまでも置いといたら味も風味も落ちるばかり。なにか売れそうなアイデアがあればいいんだけど……」
「そういえば、この前の忘れ物なんですけど、持ち主は見つかりました?」
晴人くんがマスターにたずねた。マスターは首を横に振る。
「持ち主はまだ見つからない。常連さんには聞いてるんだけどね」
店の入り口のドアが開いた。そうしているあいだにも店にはお客さんがやってくる。
「いらっしゃいませ」
マスターはお客さんをにこやかに迎え入れた。
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