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04.さっきまで店にいたはずの
その箱は三日ほど前、アルバイトの晴人くんがテーブル席で見つけたものだった。午後の遅い時間、テーブル席を片付けているとき、椅子の上にひとつ残されていた箱。しっかりと包装紙に包まれた箱。
「これ、お客さんの忘れ物ですよね?」
晴人がマスターに箱を差し出した。途端にマスターは晴人に叫ぶ。
「店の外見てきて!」
晴人は外に飛び出す。空になったコーヒーカップと食器を載せたトレイをカウンターに放り出して。けれど、店の外に出た晴人が店に面した通りの左右を何度見ても、さっきまで店にいたはずのお客さんの姿はどこにもない。まばらに人が歩いているだけだった。
「そこの席にいたお客さんって、どんな人だったっけ?」
店の外から戻ってきた晴人にマスターがたずねる。けれど、晴人は首を傾げるばかり。
「すみません、あまり印象に残らない感じのお客さんだったんで」
「覚えてないならしょうがないよ、君が謝ることでもないし。僕だってうっすらとしか覚えていない、いろんなお客さんが来るから。つまりは常連さんじゃないってことだろうね」
マスターの言葉に晴人はうなずいた。
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