04.さっきまで店にいたはずの

1/1

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

04.さっきまで店にいたはずの

 その箱は三日ほど前、アルバイトの晴人くんがテーブル席で見つけたものだった。午後の遅い時間、テーブル席を片付けているとき、椅子の上にひとつ残されていた箱。しっかりと包装紙に包まれた箱。 「これ、お客さんの忘れ物ですよね?」  晴人がマスターに箱を差し出した。途端にマスターは晴人に叫ぶ。 「店の外見てきて!」  晴人は外に飛び出す。空になったコーヒーカップと食器を載せたトレイをカウンターに放り出して。けれど、店の外に出た晴人が店に面した通りの左右を何度見ても、さっきまで店にいたはずのお客さんの姿はどこにもない。まばらに人が歩いているだけだった。 「そこの席にいたお客さんって、どんな人だったっけ?」  店の外から戻ってきた晴人にマスターがたずねる。けれど、晴人は首を傾げるばかり。 「すみません、あまり印象に残らない感じのお客さんだったんで」 「覚えてないならしょうがないよ、君が謝ることでもないし。僕だってうっすらとしか覚えていない、いろんなお客さんが来るから。つまりは常連さんじゃないってことだろうね」  マスターの言葉に晴人はうなずいた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加