05.夕方と昼間の境目のような

1/1

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

05.夕方と昼間の境目のような

 その日の夕方と昼間の境目のような遅い時間、レインキャッチャーのお客さんはまばらだった。  マスターはお客さんが忘れていった箱をまじまじと眺める。  包装紙はライムグリーン色をした無地に見えるけれど、近くでよく見てみると、細かな模様が淡く描かれている。迷宮のような迷路のように入り組んだ幾何学模様。そんな迷路の壁は今にも消え入りそうなほどに淡くて薄い。  まさに捜査も迷宮入りか。幻のような迷宮を目の前に、マスターはひとり探偵の気分に浸る。けれど、探偵を気取ったところで手がかりひとつつかめやしない。何も証拠を発見できない。  そのとき、新しいお客さんがレインキャッチャーの扉を開き、扉に取りつけている小さな銅の鐘が、カランカランと店内に鳴り響く。 「いらっしゃいませ」  誰かの忘れ物。ま、そのうち取りに来るかもしれない。そう思いながら三日も過ぎたけれども。マスターはその箱をカウンターの内側にしまい込んだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加