07.高級な靴屋さんになんて

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07.高級な靴屋さんになんて

「靴屋さんはうちの包装紙だと言ったけど、そのお客さんが誰なのかはわからないし、お客さんが判明したとしてもそのお客さんの同意なしには名前も連絡先も教えられないって」  マスターはアルバイトの山崎さんにそう告げた。  昼下がり、ランチタイムの忙しさもひと段落した。山崎さんは平日のランチタイムから夕方まで、レインキャッチャーでアルバイトしている主婦。飲食店でアルバイトやパートした経験があり、マスターも大いに助けてもらっている。 「たしかに高級なお店だし、今は簡単にお客さんの個人情報なんて外に出せないですからねえ」  山崎さんはマスターにそう告げた。 「でもこれで手がかりがひとつ判明した」  マスターは探偵気分で言った。でも、その箱の出どころがわかったからといっても、その箱の持ち主に近づいた手応えみたいなものはない。そのとき、店の入り口のドアが開き、ベルが鳴り響いた。 「いらっしゃいませ」  店にやってきたのは常連の女性二人連れ。近所に住む京塚さんと熊野さんの二人の女性。マスターよりも少し年上の四十歳前後くらい。 「今日のコーヒーとチーズケーキをふたつずつ」  マスターがコーヒーを淹れる準備を始める。 「ねえねえ、この箱に見覚えない? 何日か前の夕方にお客さんの誰かがこの店に置き忘れていった箱なんだけど」  山崎さんは靴屋の名前を挙げながら二人にたずねた。けれど、二人とも首を振る。 「そんな高級な靴屋さんになんて縁がないからねえ」  山崎さんは私も同じよと笑いながら、箱をカウンターの内側に引っ込めた。そうするうちにコーヒーも淹れ終わる。 「お待たせしました。本日のコーヒーです。それにチーズケーキ」
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