声は空気に浸透するのだ

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声は空気に浸透するのだ

 とある京都南部にある駅の改札口付近。行方不明者の足取りが消えた場所であり、昼間は人が絶え間なく行き交う場所。ひとまず到着した男は四方を広告で埋め尽くされた柱に背を預け、茶色い猫っ毛パーマを揺らしながら周りを見渡す。  何処を見ても、人、人、人。  眼を閉じても行き交う人が見える程の足音、話し声、人が目の前を通り過ぎただろうことを感じる生温い空気の動き。絶対に孤独を感じない空間だな、とでも思いながら背丈が178cm程ある男――久利(くり)は耳を澄ました。 「もしもし、今着いたので後5分程かと」 「今ここー、改札の前。わかるー?」 「えっと、ここをこう曲がって……えー、こっち?」  まず聞こえるのは耳を澄まさなくても聞こえる表の声。  それを右から左へと耳の中で流し、自分の感覚から遠ざける。 (欲しいのはそれじゃない) (俺が欲しいのは、その裏側)  目を閉じ過ぎると聞こえなくなるのは知っている。  眼は浅く閉じて、現実と裏側の狭間が見えるように。  視界を揺らがすように、視界を閉じる。  完全な暗闇ではない、少し眩みを帯びた歪んだ世界を見据える。 『ああ、疲れた』 『待ってるの超だるい』 『あいたくない、かえりたい』  重い空気と共に耳に入り込むねっとりとした何かを帯びた言葉。人混みの熱気を感じる身体に、気持ちの悪いじっとりとした汗がにじむ。何度聞いても慣れない、不快な空気を帯びた人間の重たい声。 (でも、聞きたかったのは、これだ)
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