声は空気に浸透するのだ

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 特定の人物の表の声と、裏の声。いわば、口に出した声と心の声両方を聞き、追うことが出来る。その際に、見分けやすいように瓶にその人物の声を記憶し、その声の波長と近い場所を歩きながらその人物が零した声を聞きつつ居場所を探ることができるのが、久利なのだ。その力は無限に使えるわけではなく、耳で聞こえる声だけでなく心に病をもたらすという重い声も聞こえてしまうので心身をこれでもかとえぐり、削る。何度も使う内にその気怠さは慣れてきてはいるものの、使っている最中の痛みと眩暈は使用し続けると嘔吐も促してくるので一日に数回が限度の力だ。  何故そんな能力を持っているのか、何故自分はそんなことを出来るのか、物心ついた時からなんとなく聞こえ始めた久利にとってその理由はよくわかっていない。だが、探偵を生業とすると非常に金になるので久利は自分のこの能力を気に入っていた。それは久利がポジティブな思考しか持ち合わせていない楽観的な人間であるからこそなのだろう。そのため痛みに耐えれるからと時々声を聞きすぎることもあるが、耳に入りにくいよう声同士を分散させれば聞きたくないものは聞かずにすむので“声の分け方”に慣れてからは特に苦労なく生きることが出来ている。 「あっちー。だりー」 『花音(かのん)に会うのはいつぶりだっけな。楽しみだなぁ』  久利が瓶を振りながら歩めば、聞こえてくる声。どうやら独り言を呟きながら歩いていたらしく、表と裏両方の声が久利の耳に入った。その声は、ターゲットは依頼者の家へちゃんと向かっていたことを示していた。  今回の依頼者は、皇花音(すめらぎかのん)。  ターゲットである英二の妹だ。  依頼の内容は、『昨日から行方不明の兄を探してほしい』だ。  成人男性であれば1日くらい……と思うところだが、事情が違った。それ故に、久利の上司はこの依頼を速攻受理した。決して、花音がとても見目麗しい女性だったからという理由ではないと信じたい。勿論、久利が能力をフルに活用して俄然やる気を出して頑張っているのも、お金持ちの娘である花音が羽振りのいい依頼料を提示したからという理由では決してない。ただ単純に、人命がかかっているのだから急がねば、と頑張っているのだ。そう、人として、正しいことをしているのだから何も問題ない。 「このへんだよなぁ……?」
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