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咄嗟に後頭部を抑え蹲る久利。これは、声と一緒に拾った音の衝撃。この痛みと重さが意味することがわかった久利は、英二ではなく、管理人と名乗った男の声を拾うことに集中した。痛みで朦朧とする頭のおかげで視界は簡単に歪み、表だけでなく裏の声も拾えた。
「花音さんを呼び捨てにするなぁあああ!」
『花音さんは俺の天使、俺のなんだ、誰にも渡すものか!』
狂ったような叫びと気迫のこもった声を拾い、「ああ、くそ」と久利は吐き捨てる。
依頼者は言っていた。
『最近ストーカーされているみたいで、それで兄を家に呼んだのですが、もしかしたら、そのストーカーに兄は……!こんなことなら、学校近くのアパートに行きたいなんて私が駄々をこねなければ……っ』
涙を目に溜めていた花音の姿を思い出し、久利は歯を食いしばり、痛みの残る頭を思い切り横に振る。音の衝撃は脳に直接響くので中々尾を引いて残るのが困りものだ。だが、緊急事態と分かれば痛がっている場合ではない。久利は無理矢理痛みを飛ばし、恐らく花音のストーカーだろう人物の声を拾っていく。
「花音さんは俺の……俺の……花音さん……」
狂ったようにブツブツと呟く声はとある方向へと向かって行く。思念が強いからか、今真横で喋っているかのようにハッキリと聞こえるが、その分久利の心身に重苦しい倦怠感を与えてくる。久利は歯を食いしばりながら声を追った。アパートの方へ向かっていたそれは、声の進み方が異様に遅かった。呟きが、間隔を殆ど空けずに続いていた。これは、成人男性の歩くスピードじゃない。何か重い物を運んでいる人の進み方だ。
「まさか……!」
久利は瓶を取り替え、縦に思いっきり振った。
瞬間。
微かだが、とても小さな裏の声を久利の耳が拾った。
『痛ぇ……』
それは英二の声だった。
すぐに気を失ったようでそれ以上英二の声は拾えなかったが、敷地内で聞こえたことから答えが1つ導き出された。皇英二は、管理人じゃなく花音のストーカーに捕まって連れ去られたのだ。
『俺の花音さん……邪魔者を捨てたら……行くからね』
男の裏の声を耳が拾う。
その声は、ゆっくりと、花音の部屋の下へと向かっていっていた。
「うっわ……マジかよ……」
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