声は空気に浸透するのだ

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 久利は人がはけ、こちらに興味を持つ声がなくなってから部屋へと侵入した。少し曲がった扉を踏みつけ、土足のまま上がり込む。 『誰……か……』  裏の声が、奥の部屋からかすかに聞こえてくる。  今にも消え入りそうな弱弱しい声だった。  玄関直結の座敷まで土足のまま進むと、ガムテープで頑丈に封印された押し入れを見つけた。その襖を軽く叩くと『ああ、くそ、いやだ、入るな!』と部屋の持ち主を拒否する裏の声が聞こえた。  それを聞き、久利は察する。  ここだ  襖の隙間に手を入れると、久利は「ふんぬ!」という掛け声と共に襖を外した。古いタイプの襖はあっさり溝から外れ、テープでくっついた部分がまるで留め具の様な役割となり、扉の様に襖が開いた。  そして、襖の中には。 『だ、誰!?』  手足を縛られ、口鼻もタオルで縛られた皇英二がいた。狭い押し入れの中で何とか身を捩って逃げようとしていたのだろう。着ている服の所々が擦り切れ、驚き見開かれ久利を凝視していた目は段々と滲んでいき「フゥ……フゥッ……!」とタオルの中で何度も息が漏れた。 「うん、よく頑張った」  体力の限界でもう身を捩ることも頭を下げることも出来ず壁にもたれかかりただ涙を流し、湿ったタオルの中で必死に息をする彼の頭を久利は優しく撫でてやった。 『助かった……!』  皇英二の心からの安堵の裏の声を拾い、久利は安心させるように微笑んだ。
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