雪女からのラブレター

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雪女からラブレターをもらった。 こんなこと言ったら頭おかしいと思われるかもしれないが本当のことなのだ。 その雪女というのがウチのクラスのマドンナ、 雪見(ゆきみ)リナ。 黒髪を顎のラインに沿ってカットしていて、肌は雪のように白い。 瞳は猫のように丸くキリッとしていて誰もが 見惚れてしまうような美少女である。 そんな彼女は昨日オレに 耳を疑うようなことを言った。 「私、実は雪女なの」 窓の外に降り積もる白いもの を眺める雪の妖精のような彼女は そう呟いた。教室にはオレと雪見だけ。 振り向きそうになったが、オレは気づかないふりをして帰宅準備を始めた。 こういうのは気づかないふりが一番だ。 彼女は学校一の人気者だし、人気者ゆえのストレスがたまっているのだろう。多少心を病んでしまっても仕方のないことだ。それに、オレなんかにクラスのマドンナが話しかけるわけがない。 「ねぇ、聞いてるの? 春川?」 ん?今春川って聞こえたけど…。 雪見と目が合う。え? まさか 「……お、オレに話しかけてるのか?」 「あんた以外誰がいるって言うのよ」 雪見は呆れたように軽くため息をついた。 「いや、ひとりごとかと…」 「そんな突飛なことひとりごとで言わないわよ」 雪見のムッとしたような表情を見て オレは心の中で頷いた。…わかるぜ、その気持ち。 自分の妄想を他人に聞かれたら恥ずかしいよな。 隠したくもなる。 雪見も気まずいだろうし、早く帰ってあげよう。 「だ、だよな! じゃ、オレもう帰」 「待ちなさい」 「ぐえっ」 首根っこを掴まれて変な声が出た。 「無視しないでよ! 私、 勇気を出して言ったのよ!」 大きな声にたじろいでしまう。 「ご、ごめん。雪女なんだ。へぇー」 「ちょっと!信じてないでしょう!! 棒読みじゃない!」 「そんなことは…」 ある、けど。 「…ごめんね、春川。私のせいで……」 ん? あぁ、帰り際に引き止めたことか。 オレは優しいほほ笑みを浮かべ 「いいよ。雪見がここまで言うってことは、なんか話があるんだろ?」 「春川……」 涙がその陶器のような肌をつたう。 !?? 「ど、どうしたんだよ?」 「あなたは知らなければいけない。わたしが、私たち一族が犯した罪を」 今にも泣きそうなその顔に胸が苦しくなる。 君のせいじゃない は? オレ、今なんて思った? でもなぜか雪見とオレが出会う前から知っているような、そんな気がした。 何故か、段々と教室が冷えてきた。 雪見の頬を伝う涙も凍りはじめている。 教室には暖房も入っているはずなのに。 「あぁ、やっちゃった。上手く感情をコントロールできるようにならないと」 そう言うと同時に教室の温度が少しずつ戻ってきた。 「ホントに…雪女、なのか?」 雪見は悲しそうに微笑み、頷いた。 「ねぇ、春川。もう、渡せないかと思ってたけど これ受けとってくれる?」 黙って春川(まこと)様と書かれた手紙を 受け取る。 裏面には雪見の名前。 封を留めているのは銀色のハートだ。 え、まさかこれ… 「雪見…これって…」 視線を雪見に戻すが、そこに彼女はいなかった。 まさかラブレター? いやいや、まさか… オレはごくんと唾を飲み込んだ。 帰宅後、オレはすぐに封筒から白い便箋を 取り出し綺麗な文字を追った。 春川へ こんなことになってしまって 本当に申し訳なく思ってる。 わたしが雪女であるせいで、 あなたは死んでしまった。 謝りたかったけど春川は記憶を失ってて。 それでも伝えないといけないのは分かってたけど 勇気が出なかった。 だから、手紙という形であなた に真実を伝えたいと思う。 私は雪女の家系に生まれた。 妖怪は人間に恋をしてはならないという規則がありながらも私はあなたに恋をしてしまったの。 あなたが私と同じ気持ちだって知ったとき、 とても嬉しかった。 けど、去年の冬に私たちの関係がバレてしまって あなたは雪の降り積る部屋に閉じ込められた。 あなたは何度も私たちを認めて欲しいと襖の奥から 叫んで、私も泣きながらおじい様やお父様にあなたをこの部屋から出して欲しいと懇願したけれどみんな 首を振る。「人間と妖怪が結ばれることなどあってはならない」と怖い顔で言った。 なんで、私は雪女として生まれてしまったのだろう。 悔しさと悲しみから涙が溢れた。 やがて、あなたの叫び声が弱々しくなっていって 最後には、何も聞こえなくなった。 彼を早く部屋から出して!! じゃないと死んでしまう!! 泣きながらおじい様にすがりつくけどおじい様は私を見下すかのような表情をしてその場を去っていった。 次にあなたを見たとき、 あなたはとても冷たくなって横たわっていたの。 ごめんなさい。私のせいだわ。 私が異種族だから。妖怪だから。 家族が憎い。 どうして何の罪もない彼を殺すの? 殺すなら私を殺せばいいのに!!! 娘を雪女の血を繋ぐだけの道具としか思っていない家族なんていらない。 自分からこんな家族捨ててやる。 そう思った私は自らの心臓を凍らせた。 これが、あなたの失った記憶にある真実よ。 あなたはもう死んでいるの。 そして、私も。 ごめんなさい。 私のせいであなたは死んでしまった。 次に生まれ変わることがあるのなら、 あなたと同じ、人間に生まれ変われたら良いのに。 なんて、願うのはワガママよね。 私を許さなくてもいい。 どうか、来世では私のことなんか忘れて 幸せに生きてね。 雪見リナ 雫が便箋を濡らした。 雪見…どうして、そんなことを。 何も覚えていないのに、その映像が脳裏に浮かぶ。 もしかしたら記憶の片鱗なのかもしれない。 私のことなんか忘れてなんて言うなよ!と もう一人のオレが叫ぶ。 確かにオレを殺した奴は憎いが、雪見はオレを助けてくれようとしたじゃないか。どうして、 死んだりなんかするんだよ。 …そっか。オレと雪見は死んでいたのか。 雪見、オレは幽霊になっても 雪見のことが好きだったよ。 ありがとう。 こんなオレを好きになってくれて。 何度生まれ変わってもオレはまた君と巡り会えることを願うだろう。 忘れるなんてできないよ。 目を瞑ると暖かい涙がこみ上げてくる。 オレは手紙(ラブレター)を胸に押し付けるようにして抱きしめた。 だから来世で、また会おう。 終わり
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