第三十五話

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 誰もが分かっているのにそれを言葉にする事は無かった。  マアラの落ち込み様は激しいものだった。  頑丈で有名なマアラが床に伏せってしまったのだ。  部屋への入室が拒絶されマアラの様子を窺える者はルアン意外にはおらず、屋敷全体が悲しみに包まれていた。  以前、真琴が時空の歪みに落ち行方不明になってしまった時とは違う。  あの時は時空は違えど真琴との絆ははっきりと繋がり分かっていた。  だが、今回は…。  滅多に泣く事など無いマアラの心の中に悲しみが広がり、溢れ出た涙が頬を伝わり、服の上へと落ちる。  仕事をする気力も無く食欲も無くなりマアラは無気力だった。  誰とも会う気になれず部屋に閉じこもっていたマアラの部屋の扉をノックする音がする。  それに対してマアラは返事をせず、窓から見える景色を見ていると突然扉が開いた。  不敬だなとマアラが睨み付ける様に扉の方に視線をやるとそこには呆れた様な表情を浮かべた朱桜が立っていた。 「いつまでウジウジ悩んでいるの。さっさと支度しなさい。真琴を迎えに行くんでしょ」
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